旅の達人が綴る、日常を飛び出すヒント - あなたも?「旅慣れない」仲間のための、とっておきの旅エッセイ
この記事を書いたライター
山田 純 (やまだ じゅん)
年齢: 35歳 職業: 書店員
15カ国を巡る、笑いあり涙あり珍道中
角田光代さん著『いつも旅のなか』(角川文庫)は、2005年に発行されたエッセイ集です。モロッコ、ギリシャ、オーストラリア、スリランカ、ハワイ、モンゴル、ミャンマー、イタリア、アイルランド、バリ、ネパール、韓国、スペイン、キューバと、著者が訪れた15カ国を舞台にした、個性豊かな旅の物語が綴られています。
え、金たま料理!? 予想外の連続に、ページをめくる手が止まらない!
この本を開いてまず驚いたのは、旅先でのエピソードがどれもこれも、予想外の連続であること。親切すぎるモロッコの客引き、トイレに行けない恐怖のロシア国境越え、シーズンオフのギリシャで奇岩群メテオラを目指すハプニング、深夜の海岸で延々と続くマレーシア流バーベキュー…。まるでドタバタ喜劇のような展開に、思わず笑いがこみ上げてきます。
旅は、人生の縮図? 深い洞察に、ハッとさせられる
しかし、著者の筆致は単に面白いだけではありません。旅先で出会う人々や文化、そして自分自身の内面を、鋭くも温かい視点で見つめ、読者に深い示唆を与えてくれます。
聖地で気づいた、本当の「祈り」の意味とは
例えば、スリランカの聖地スリーパーダで日の出を待つ場面。周囲の巡礼者たちの熱心な祈りに感化されながらも、著者は「恋人」と「文学賞」という、なんとも俗っぽい願いで頭をいっぱいにしています。しかし、日の出を目にした瞬間、それらの願いはすっかり消え失せ、自身の内側にぽっかりと空いた空洞のようなものに気づくのです。そして、それが「祈るということ」なのかもしれないと、静かに悟る場面は、旅を通して得られる精神的な成長を鮮やかに描き出しています。
旅慣れないとはどういうことかというと、旅がこわいのである。異国がこわいのである。
この言葉に、私は深く頷いてしまいました。未知の世界へ足を踏み出す不安、言葉の通じないもどかしさ、文化の違いからくる戸惑い。そうしたネガティブな感情すらも、著者はありのままに受け止め、ユーモラスに描き出すことで、旅の醍醐味を際立たせているのです。
さあ、あなたも旅に出よう!
旅慣れない私にとって、この本は、日常を飛び出すための勇気を与えてくれる、大切な一冊となりました。ガイドブックには載っていない、生の旅の記録。それは、世界の見方、そして自分自身の生き方を見つめ直す、貴重なヒントを与えてくれるはずです。
この本は、ひとり旅が好きな人、これから旅を始めたいと思っている人、そして、旅先でのハプニングや出会いを求めている人、すべてにおすすめです。読み終えた後、きっとあなたも、未知の世界へ足を踏み出したくなるでしょう。