一人の男の苦悩を通して人間存在を問う
この記事を書いたライター
田中 真佐夫 (たなか まさお)
年齢: 55歳 職業: 大学教授(文学部)
最初のページを開いた瞬間、私はもうこの本に囚われていました。
「人間を失格する」。それは一体どういうことか? 太宰治の代表作『人間失格』を読み終え、深い哀しみと共に、この問いが頭から離れなくなりました。この作品は、1948年に発表された太宰治の遺作であり、彼の分身ともいえる主人公・葉蔵の、幼少期から破滅へと至るまでの苦悩を描いた私小説です。
人間存在への恐怖と不安
葉蔵は裕福な家庭に生まれながら、常に人間存在への根源的な恐怖と不安を抱え、周囲の人々との間に深い溝を感じて生きています。彼は、その苦しみから逃れるためにお道化を演じ、周囲の人間を欺きながら、酒、女、モルヒネに溺れていくのです。
まるで自分を見ているよう…葉蔵の孤独と苦悩に共感
葉蔵の痛々しいまでの自己嫌悪と、人間関係における絶望は、読む者の心を深く揺さぶります。私自身、葉蔵の孤独と苦悩に共感し、彼の人生を辿るうちに、自分自身の人間としての弱さと脆さを改めて見つめ直すことになりました。
人間の深層心理を抉り出す
太宰治の筆致は、鋭く、時に残酷なまでに人間の深層心理を抉り出します。特に、葉蔵の心情描写は圧巻であり、「恥の多い生涯を送って来ました。」という冒頭の一文から、読者は葉蔵の苦悩の世界へと引きずり込まれるでしょう。
葉蔵の心の奥底にあるもの
例えば、葉蔵が人間関係の恐怖から逃れるためにお道化を演じる姿を描いた一節があります。
「そこで考え出したのは、道化でした。それは、自分の、人間に対する最後の求愛でした。自分は、人間を極度に恐れていながら、それでいて、人間を、どうしても思い切れなかったらしいのです。」
この一節は、葉蔵の心の奥底にある、人間への強い憧憬と、同時に拭い去ることのできない恐怖を表しており、読者の心に深く突き刺さります。
『人間失格』はこんな人におすすめ
『人間失格』は、人生における孤独、疎外感、罪悪感といった普遍的なテーマを扱っており、人間の心の闇を深く探求したいと願う読者にとって、必読の一冊と言えるでしょう。特に、現代社会においても、人間関係の難しさや、生きることの意味に悩み苦しむ人々にとって、葉蔵の苦悩は共感を呼ぶはずです。
あなたは「人間」を本当に理解していると言えるか?
この作品は、私たちに多くの問いを投げかけます。人間とは何か? 生きる意味とは何か? 真の幸福とは何か? これらの問いに対する答えを見つけることは容易ではありませんが、『人間失格』を読むことで、自分自身の人生と向き合い、深く考えるきっかけを与えてくれるでしょう。