あなたは「どう死にたいか」と聞かれたことがありますか?
この記事を書いたライター
藤原 彩花 (ふじわら あやか)
年齢: 28歳 職業: フリーランスライター
「人は、いつ死ぬかを知っていたとしても、やっぱり生きたいと願うものなのだろうか」。
二宮敦人さんの最新作『最後の医者は桜を見上げて君を想う』を読み終えた時、深い余韻とともに、そんな問いが頭から離れませんでした。
最初のページを開いた瞬間から、まるで運命に導かれるように、私はこの物語に引き込まれていきました。
希望と絶望の狭間で
2018年にTO文庫から出版されたこの作品は、現代医療における倫理観や価値観、そして究極的な選択を迫られる患者とその家族、そして医師たちの葛藤をリアルに描いています。
舞台は武蔵野七十字病院。
優秀な外科医である副院長・福原雅和は、どんな困難な状況でも決して諦めず、患者を救うことに全力を注ぐ、まさに「熱血医師」と呼ぶべき存在です。
一方、皮膚科医の桐子修司は、患者に「どう死にたいか」を問う異端の医師として、病院内で「死神」と恐れられています。
死に対する考え方が全く異なる二人が、それぞれの信念に基づき、死の影に覆われた患者たちと向き合っていく姿が、この物語の大きな軸となっています。
ALS患者・まりえの決断
特に印象的なのは、余命わずかなALS患者・川澄まりえと、彼女を担当する内科医・音山晴夫の物語です。
「世界は私を近いうちにいなくなる人として扱わざるを得ない」
医師になるという夢を諦め、静かに死を受け入れていくまりえの言葉は、音山の心を深く揺さぶります。
音山自身も、これまで漠然とした不安を感じながらも目を背けてきた「死」の現実を、彼女の姿を通して真正面から突きつけられるのです。
死神が語る、もう一つの希望
「死に振り回されると、往々にして生き方を失います。生き方を失った生は、死に等しいのではないでしょうか。逆に、生き方を維持して死ぬことは、生に等しいとは言えないでしょうか」
この作品で私が最も心を揺さぶられたのは、桐子修司の言葉の数々です。
彼は、多くの医師が語る「病気との戦い」や「希望を諦めない」という言葉の残酷さを指摘し、患者自身の意思を尊重する、もう一つの医療の形を提示します。
彼の言葉は、まるで禅問答のように深く、時に冷酷にも聞こえます。
しかし、そこには患者に対する深い愛情と、死という避けられない現実を真正面から受け止めようとする、強い意志が感じられました。
誰にでも訪れる「最後」のために
『最後の医者は桜を見上げて君を想う』は、医療従事者の方にはもちろん、人生について、そして死について深く考えたい全ての人におすすめしたい一冊です。
死は誰にとっても避けられないものです。
しかし、どう生きるのか、どう死ぬのかは、私たち自身が決めることができる。
この作品は、そんな当たり前のようで忘れがちな、大切な真実を私たちに思い出させてくれます。