風の音、エンジンの鼓動、そして心の再生ー「さいはての彼女」が連れて行ってくれる場所
この記事を書いたライター
藤原 彩花 (ふじわら あやか)
年齢: 28歳 職業: フリーランスライター
この本の最初のページを開いた瞬間、私はもう手放せなくなりました。
ページをめくる手が止まらない、そんな読書体験を久しぶりに味わわせてくれたのが、原田マハさんの短編集「さいはての彼女」です。2012年に角川書店から出版されたこの本は、それぞれ異なる人生を歩む女性たちが、ハーレーダビッドソンという共通項を通じて自分自身と向き合い、再生していく姿を描いた連作短編集です。
「さいはての彼女」秘書のいたずら?が私の人生を変えた
特に印象に残ったのが、表題作の「さいはての彼女」。仕事で成功を収めながらも、どこか満たされない日々を送る主人公、鈴木涼香。失恋の痛手を癒そうと沖縄旅行へ出発するはずが、秘書のいたずら(?)で北海道の女満別空港へ。そこで出会ったのが、赤いハーレー「サイハテ」に乗る、クールな聴覚障害者の女の子、ナギでした。
涼香はナギのペースに巻き込まれながら、北海道の大地をサイハテで駆け抜けます。最初は戸惑っていた涼香ですが、次第にナギの持つ不思議な魅力に惹かれていきます。それは、ナギが風を感じるようにハーレーと一体化し、ハンディキャップを感じさせない強さと明るさを持つ女の子だからでしょう。
「風を止めないで」ー聴覚障害の少女が赤いハーレーで走り続ける理由
旅の途中で明かされるナギの過去。幼い頃に聴力を失い、絶望の淵に立たされた彼女を救ったのは父親とハーレーでした。「どんどん越えていけ!」そう励まされながら、ナギはハーレーと共に「線」を越えて走り続けます。
印象的なのは、ナギが語るこの言葉です。
私、ずっと走り続ける、って決めたの。やっと吹き始めた風を、もう止めたくないから
まるで、風を切り裂くように力強く、そしてどこか切ない響きを持つナギの言葉。それは、彼女自身の決意表明であり、人生を力強く歩んでいこうとするすべての人へのメッセージのようにも感じられました。
あなたの人生にも、風を吹かせよう。「さいはての彼女」がくれた、希望のロードマップ
原田マハさんの筆致は、まさに「風」のようです。軽快でテンポの良い文章は、まるでロードムービーを見ているような疾走感を与えてくれます。風景描写の美しさも秀逸で、北海道の雄大な自然が目に浮かび、自分も一緒に旅をしているような気持ちにさせてくれます。
「さいはての彼女」は、人生に迷ったり、疲れたりしている人にこそ読んでほしい一冊です。風を切って走る爽快感、困難を乗り越えていく力強さ、そして人生の新たなスタート。この本は、きっとあなたの背中を押してくれるはずです。