千年後の日本に待ち受ける、想像を絶する世界
この記事を書いたライター
小林 一郎 (こばやし いちろう)
年齢: 68歳 職業: 定年退職者
呪力とバケネズミ、そして残酷な真実
貴志祐介という作家が書いたこの本は、2008年に講談社から出版された全3巻の長編小説で、ジャンルとしてはディストピア小説になるらしい。舞台は千年後の日本で、人類は「呪力」という超能力を手に入れている。しかし、その力は制御が難しく、かつて世界は呪力による争乱の時代を経て、ほとんど滅んでしまったという。主人公の渡辺早季は、そんな世界で育った少女で、仲間たちと共に「呪力」を習得し、大人へと成長していく過程が描かれておるんじゃ。
老いぼれの胃袋を掴んで離さない
正直なところ、老いぼれには刺激が強すぎたわい。わしが若い頃に読んだら、きっともっと楽しめたのかもしれんが、今となっては残酷な描写やグロテスクなシーンに、胃が痛くなることもしばしばじゃった。それでも、ページをめくる手が止まらなかったのは、貴志祐介という作家の筆力によるところが大きいじゃろう。千年後の世界の風景や文化、バケネズミと呼ばれる奇妙な生物の生態などが、実にリアルに描写されておる。特に、バケネズミの女王に謁見した場面は、暗闇の中で女王の巨大な姿と獣臭が迫ってくるようで、思わず息を呑んでしまったわい。
人類は神になったのか、それとも獣になったのか?
印象的だったのは、主人公たちが図書館のアーカイブであるミノシロモドキと出会う場面じゃ。ミノシロモドキは、かつての人類の歴史、呪力による戦乱の時代、そして新しい社会を作るために考案された恐るべきシステムについて語り始める。その内容は、わしが学校で習った歴史とはまったく異なるものじゃった。
禁断の知識が、心を抉る
「心理学的なアプローチが行き詰まると、それを補う手段として、向精神薬などを用いた脳内ホルモンのバランス管理が導入されましたが、これも、すぐに限界を露呈しました。すべての人間に対して、常時薬を投与し続けることはできないからです。代わって脚光を浴びたのは、動物行動学でした。中でも注目されたのは、ボノボという霊長類の社会です。」
千年後の世界で、問いかけ続ける人間の尊厳
ミノシロモドキの言葉は、まるでわしらの心に直接語りかけてくるようじゃった。呪力という神の力を制御するため、人類は、自らを生得的に暴力的な動物へと作り変えたというのか。それは、本当に正しい選択だったのだろうか。わしとしては、歴史好きの若いもんに、ぜひとも読んでほしい一冊じゃ。ただし、刺激が強いので、心の準備はしておくように。千年後の世界で、人間は何を得て、何を失ったのか。この本を読み終えた後も、わしは、ずっとその問いかけを心に抱き続けておるんじゃよ。